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人はすべてこの地球上に住んで生きている。安全に安心できる居住は人間生存の基盤であり、基本的人権である。20世紀は,戦争と破壊、植民地支配、災害、貧困、失業などによって多くの人々を難民,ホームレス、劣悪居住、居住不安等々に追い込み、人間としての尊厳を損なった。

これに対し、国連憲章,世界人権宣言,国際人権規約,ハビタット・イスタンブール宣言等は「適切な居住の権利」「持続可能な地球環境の維持」などを掲げ、各国政府はその実現を約束した。

私たちは、これらの基本的な居住の権利、人々が適切な住居に住み、人間の尊厳をもって、安全に安心して暮らす状態を、「居住福祉」と呼ぶ。「居住福祉」は,人間の生存と幸福の基礎条件であり,人としての基本的権利であり,人類社会が実現しなければならない目標である。すべての人々は居住福祉の確立の必要性を真摯に受け止めなければならない。各国政府は、人々が適切な居住の権利を享受でき、居住福祉が確立されるよう、国際条約、国際会議における取り決めを誠実に履行しなければならない。

それと同時に、アジアでは,西洋近代化への過度の傾斜によって,東洋固有の居住の知恵が閑却されている。自然の摂理と地域を尊重する伝統文化が省みられず、地域共同体の解体、資源・エネルギーの浪費、生態系の破壊など,居住福祉環境の悪化を招いている。

2000年に発足した「日中韓居住問題国際会議」は,各国が直面する居住をめぐる諸問題の解決を目指して研究交流を進めてきた。本会議は、西洋近代主義をその価値観とともに見直し、東洋の長い歴史と思想と文化に立脚し、人類のより良い生存と幸福に貢献するために,東アジアと世界に向けて、以下を宣言する。

1.居住福祉の理念の樹立

すべての人は適切な居住の権利を有する。各国政府はその実現の責任と義務を負う。

人権としての居住福祉の理念を樹立し、適切な社会保障と市場を組み合わせ、特に中低所得者への適切な住宅供給を十分に行い、無収入を含め、異なる収入や異なる条件の住民すべてに適切な住宅を保障しなければならない。

2.社会的排除と居住に関わる差別の禁止

人種・国籍・社会的出身の異なる人々や社会的に不利な条件の人々、とりわけ高齢者,子ども,障害者,母子家庭,傷病者、低所得者、被災者等に必要な住宅保障がなされず、社会的に排除され、不適切な居住が強いられている。こうした居住差別は、禁止、解消されなければならない。各国政府が承認した国連社会権規約等の国際上の取り決めに従い自国の法律を整備し,自力では居住確保の困難な人々を含めすべての人々に、居住を保障しなければならない。それが,居住福祉の中心課題である。

3.人と自然の調和と共存

居住環境の形成は,人と自然の調和と共存を図らなければならない。生態系を尊重する東アジアの自然観に立脚し、良好な居住福祉の次世代への継承を図らなければならない。国土の開発と利用に際しては、農地,森林,湖沼、海浜その他の生態系環境の保全が必要である。居住地計画においては,日照、風道(かぜみち),水道(みずみち)、緑陰,水辺空間等の自然条件等をよく考慮しなければならない。

4.地域固有の文化の尊重

暮らしを支える地域固有の生活文化は、「居住福祉の土壌」として尊重・育成し,開発による破壊を禁じなければならない。また地域における思想,宗教,価値観,生活習慣などの多様性が尊重されねばならない。

私たちは東アジアに固有の居住文化の原理を尊重し継承するために,居住地の計画、建設において伝統的居住文化の伝承と発展に配慮しなければならない。

5.居住福祉資源の評価と有効利用

私たちは住宅から居住地,地域,都市,農山漁村,河川湖沼、森林緑地、地下資源、日光、空気、国土,地球まで,すべてを「居住福祉を支える資源」とみなし,その資源の評価,積極的な保護、有効な活用,再生,蓄積によって,人類社会の維持可能な発展と安心して住み働く「安居楽業」の条件を構築しなければならない。

6.居住福祉の予防原理

良好な居住福祉環境は、児童の発育と成長を促し、高齢者にやすらぎを与え、傷病の予防、健康の増進、地域の防犯機能等を向上させる。こうした居住福祉の予防機能は社会的費用を低減させる。これらに対する認識を深め積極的な取り組みが必要である。

多発する自然災害は安定した生活を破壊する。これに対して政府、自治体は有効な予防と救援措置を図り、防災機能を高め、居住福祉の持続的発展を保障しなければならない。

7.居住福祉実現の主体

居住福祉の実現のため、政府、自治体は居住の主体である住民が居住福祉政策策定と実践に参画することを積極的に保障しなければならない。居住者の居住福祉政策策定への参画を通じて、住民の「住む能力」が発展し、公民権意識が向上することは,「居住の権利」の重要な要素である。教育・学習、情報・技術の普及、研究によって、居住福祉実現の主体となりうる能力が高められなければならない。

8.国際連携・協働の強化

様々な人種や民族が国境を越えて暮らす現代社会において、地域間の居住福祉にかかわる知識、知恵、実践の交流、知識の伝承、主体の連携・協働は、良好な居住福祉社会形成に不可欠であり、世界的な居住福祉社会の形成に寄与するものである。

2005年11月3日

第5回 日中韓居住問題国際会議 奈良大会