借上復興住宅の被災者に対する

立退き強制の取りやめを求める声明

2018年6月3日

日本居住福祉学会名誉会長   早 川 和 男

日本居住福祉学会会長     岡 本 祥 浩

神戸市および兵庫県西宮市は、1995年の阪神淡路大震災後に被災者に用意された「借上復興住宅」居住者に20年の借上げ期間が満了したとして明渡し請求の訴訟を行っている。同時に行政職員による被災居住者への立退き要請活動もその何倍かの規模でなされている。

そもそも、借上復興住宅は、災害で住居を失った被災者に対し国や地方自治体が復興公営住宅の提供が十分にできない代替策として導入された。災害で住居を失った被災者に公営住宅等を早期に供給してさえいれば、立退きの必要はなかった。それにもかかわらず、借上復興住宅における生活が長期に及び高齢化等で健康上の問題を抱えるようになった現段階で、被災居住者への立退きが強制されている。

両市は、「借上げ期間が満了したら明け渡しを請求できる」としているが、入居者は入居決定時に借上げ期間満了時に明け渡す旨を知らされなかったし、建物所有者でない地方自治体がなんら過失のない入居者に退去を要請することはおかしい。

「借上復興住宅」という例外的状況の解消に代替住居を提供するのであれば、もっと早期になされるべきだった。「借上復興住宅」の被災居住者への「正当事由」による明渡し請求は、「所有者が建物を必要とする場合」に賃借人と所有者との利益を衡量した上でのみ認められるもので、建物の所有者でない地方自治体が自らの事情(財政など)で居住者の立退きを要求できない。

両市は、借上復興住宅を一定期間後に強制的な退去を要請できる定期借家のようなものと主張する。しかし、「定期借家」は「取引主体たる強い賃借人」を前提としており、それを「災害弱者」の高齢被災居住者に当てはめることは、「復興災害」をもたらすものとして最も控えなければならない行為である。

同住宅での生活が定着している高齢居住者への転居の強制は、地域コミュニティにおける人的ネットワークの喪失、買い物や医療・福祉などの居住環境の激変という居住者の生活を脅かす重大な事態を招くことにほかならず、高齢居住者の生活を孤立させ、多大な健康上の被害を生じさせる。実際、両市から強制立退きの請求を受けた居住者には、健康を害し、身体的な障害を負っている方が多い。

「借上げ復興住宅からの強制立ち退き」は民法・借地借家法、公営住宅法のみならず、強制立退きの禁止を求める国連社会権規約や障害者差別解消法、日本国憲法の諸規定の観点からも極めて深刻な基本的人権の侵害であると考えられる。

当学会は、神戸市や西宮市など関連の立退きを強いている地方自治体に、即刻「借上げ復興住宅からの強制立退き」請求を取りやめるよう強く要請する。

以上