借り上げ復興公営住宅からの退去にかかわる

日本居住福祉学会声明

 

阪神淡路大震災に関わる借り上げ復興公営住宅居住者に入居前に知らされていなかった期限を理由として退去が求められているが、最高裁判所は、2019年3月19日付で居住者からの継続居住の求めにもかかわらず、上告審としての審理を行わないという判断を行うことによって、高等裁判所の退去を認める判決を確定させてしまった。

私たちが暮らす社会は自治体や地域をはじめ協同で生活の基盤である居住を支えるべきだが、この判断は一人ひとりにふさわしい居住の実現を困難にするとともに、居住者の生命や健康に影響を与えざるを得ず、居住福祉の実現を阻むことが懸念される。

われわれの暮らしは、寝食などの生活行為を受け止める住宅と生活を支える居住地の資源や関係性などで成り立っている。そのため生活の実現できる住宅規模や居住者の身体機能などにふさわしい居住設備とともに、生活を実現する資源の利用しやすい立地や人間関係なども必要である。こうした一人ひとりの暮らしは長い年月を経て実現される。

ところが一般に転居はそれまで築いてきた暮らしの創りなおしのために多大なエネルギーを居住者に強いる。高齢や障がいを抱えている借り上げ復興公営住宅居住者の暮らしの実現には多くの条件を必要とし、暮らしの再建には居住者一般以上に大きなダメージを受けることが予想される。そもそも震災復旧復興期に安全で安心できる住居を自力で確保できなかった借り上げ復興公営住宅居住者は、住宅の確保や暮らしの実現にも支援を必要としている。それにもかかわらず期限のために転居を余儀なくされることは、国際人権規約社会権規約にも示されるようにその人らしい居住実現の困難を倍加させ、基本的人権が侵されることになりかねない。

居住福祉の観点から、今般の借り上げ復興公営住宅訴訟に関わる最高裁判所の判断に基本的人権の侵害を招く懸念を抱かざるを得ず、日本に住む全ての人がその人らしい暮らしを実現し、居住福祉社会が実現されるように行政や司法においても格別の配慮を提言する。

 

2019年6月

日本居住福祉学会会長

岡本 祥浩